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プロカメラマン山田久美夫のIFA 1999レポート

ソニー、MPEG-2ベースのMDビデオカメラを公開

'99年8月28日〜9月5日 開催(現地時間)

会場:独ベルリン 見本市会場

 ソニーがディスクメディア採用の画期的なデジタルビデオカメラ「MD DISCAM」を参考出品した。もちろん、モックアップではなく、すぐにでも製品化されそうな状態で、ブースでは具体的なデモも行なわれている。

お詫びと訂正:一部の機能につき、あやまった記述がありました。ご迷惑をおかけいたしました関係者の方にお詫びして訂正いたします


●650MBの「MD DATA2」を採用


 今回の「MD DISCAM」に採用された記録メディアは、2年ほど前に公開された「MD DATA2」と呼ばれる4倍密度のデータ記録用MDディスクだ。本機はこのメディアの世界初の実用例と思われる。

 「MD DATA」は音楽用MDとほぼ同じ構造を持った140MBのディスクメディアで、外観上も通常のMDディスクとほとんど同じものだ。ただ、データ記録用ということで、信頼性を高めているうえ、量産されていないこともあって、かなり高価。小さな容量や遅い記録など、同じ光磁気ディスクのMOなどと比べても不利な点が目立ち、ごく一部でしか使用されていない。

 今回採用された「MD DATA2」は、記録密度を4倍にすることで、650MBの容量と、書き込み/読み出しともに9.6Mbpsという高速化を実現している。オリジナルのMD DATAの容量と速度という欠点を克服したわけだ。

訂正:当初、書き込み4.7Mbps/読み出し9.6Mbpsと記述しておりましたが誤りです。


●ディスクメディアを生かした機能が満載


 “PCなしで楽しめる”。これが「MD DISCAM」の基本コンセプトだ。そして、ディスクメディアの特性を生かして楽しめる機能が満載されている。
 それは、液晶表示を見ただけでも一目瞭然だ。ディスクメディアだけに、検索やコマ送りはもちろん、編集作業もテープメディアの比ではないほど簡単でスピーディー。とくに、液晶上に録画されたものの一覧表示がパッとサムネイルで表示されるあたりは、従来のDVとは全く別の世界だ。

 さらに、本機にはカメラ内に、実に様々な機能が盛り込まれている。たとえば、動画の上にペイント感覚で加筆することも自由自在。

訂正:当初、「また、動画2つを同時に表示し、コマ送りをしながら同期させて、ゴルフのフォームをチェックすることもできる。」と記述されていましたが、2画面表示の場合は片方は静止画となります。お詫びして訂正いたします。

 もちろん、編集も簡単で、タッチパネル式になっている液晶モニターに表示されているサムネールを、カメラ付属のペンで選んで編集する。編集時のつなぎ目をフェードイン・フェードアウトする機能もあり、編集後にその効果を簡単に追加できる。これらの機能は、従来からPC上で作業することで実現できたわけだが、それをカメラ本体だけで楽しめる点が画期的だ。


●動画、静止画ともMPEG-2フォーマット

 記録フォーマットは、MPEG-2を採用している。動画はもちろんだが、静止画も同様。会場でのデモ画面をよく見ると細部にMPEGデータらしい雰囲気は残っているが、意地悪な目で見なければ何ら問題ない。ただし、静止画はJPEG記録に比べると画質面は不利だ。静止画についてはサブの機能と割り切られているのだろう。


●記録時間は最大20分

 連続記録時間は、最大で20分。画質優先モードでは、その半分の10分になるという。さすがにこの点は、テープメディアに対して引けを取る部分だ。だが、実際に20分以上も連続して動画撮影をするケースはほとんどなく、かなり特殊な状況だろう。デジタルビデオカメラとして考えると、ディスク1枚あたり20分という記録時間は必要十分なものに感じられる。


●PCとの連携はイーサーネット

 もちろん、「MD DISCAM」で撮影したデータをPC上に送って楽しむこともできる。インターフェイスは、「i.LINK」ではなく、予想外のEthernetだ。入手しやすく対応機種の多いEthernetカード(NIC)をセットするだけで、ほとんどのパソコンにデータを転送できるというメリットを評価しての採用という。

 プロトコルはTCP/IPで、パソコンからの操作は基本的にWebブラウザで行なうことができる。また、ブースでは言及していなかったが、近い時期にソニーが無線によるインターネット接続サービスを開始するという計画があることを考えると、その際にはこのカメラ自体にインターネットでアクセスし、ネット経由で遠隔地の人に画像を見せるといったことができる可能性もある。このカメラで子供を撮影し、それをWebTV経由で、祖父母に見せるといった展開も不可能ではない。


●またひとつ現実化する夢の世界


 ディスクメディアを使ったデジタルビデオカメラ。それは、テープメディアから半導体メディアへ移行する途上の過渡期の製品なのかもしれない。だが、仮に早い時期に半導体メディアを使ったビデオカメラが登場したとしても、ランニングコストと保存性、信頼性、さらには家電製品としてメリットや価格競争力といった面まで考えると、即座に主流になりえるものではないだろう。

 さらに、「MD DISCAM」は、これまでのテープ式ビデオカメラにはない、数多くの機能を備えており、それを“便利さ”ではなく、“楽しさ”という側面から具体化した点に、とても好感が持てる。残念ながら、今回は、参考出品であり、必ずしもすぐに製品化されるわけではない。また、MDを収納するため、サイズ的にも現行のハンディーなDVカメラに比べ大きくなってしまう点や、20分という記録時間も実用的には問題ないが、スペックとして物足りなさを感じる人もいることだろう。

 しかし、この「MD DICSAM」には、これまでのDVカメラにはない、さまざまな楽しさがあり、ディスクメディアならではのメリットを存分に感じさせる魅力を備えている。とくに、高性能なPCでノンリニア編集をするよりも遙かに手軽で簡単に、カメラ単体で動画編集が楽しめるため、縁遠い存在だった“ムービー編集”を一気に身近なものにする可能性を秘めている。さらに、ネット経由で遠隔地から本機にアクセスできるようなシステムが構築されれば、動画という文化すら変えてしまう可能性もある。

 このような“夢”を実現できることが、デジタル家電ならではの醍醐味だ。そして、この「MD DISCAM」はそれを意外なほど身近に感じさせる、魅力的で新鮮な製品である。参考出品のため製品化および発売時期などは全く分からないが、個人的にはなるべく早い時期に商品化されることを期待したい。

□「IFA 1999」(Internationale Funkausstellung Berlin)
http://www.ifa-berlin.de/

('99年9月1日)

[Reported by 山田久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 [email protected]